『現場不在証明』
アリバイという言葉は日本語ではこのように訳されるのだそう。
おすすめの本その11では、このアリバイに翻弄される男のお話をご紹介。
『幻の女(1942)』。作家コーネル・ウールリッチがウィリアム・アイリッシュ名義で発表した最初の長編小説であり、1944年に映画化もされている名作です。
ざっくりとしたあらすじは、妻殺しの嫌疑をかけられた男がアリバイを証明するために、たまたまその時間を共に過ごしたオレンジ色の帽子の女を探し始める。しかしその日出会った誰しもがそんな女は見なかったと証言し、男のアリバイは証明されないまま、たちまち死刑が確定してしまう。
そんな崖っぷちから物語はスタートし、第一章のタイトルは「死刑執行前 百五十日」。
止まらないカウントダウン。迫るタイムリミット。
全ては親友の男に託され、彼もまた露と消えた幻の女を追いかける。
なぜ誰も女を見ていないのか、そもそも女は存在するのか、妻を殺したのは誰なのか。
親友視点で謎を追っていく一方で、主人公の浮気相手であった恋人も独自に犯人を追い詰める。
実は、この謎を追う男と追い詰める女という二つの視点がこのミステリーの鍵であるわけですが、幻の女の存在が読者の視界の真ん中を独占していることで、最後のその瞬間まで見事に謎は謎のままなのです。
クライマックス、犯人を追い詰めたのはいったい誰だったのか。
皆さんもぜひ手に取って確かめてみてください。
前回オススメした『雪と毒杯』と同じく、半世紀以上前に発表された作品にもかかわらず、使い古されることのないトリックが鮮やかな文章で読者を欺いてくれます。
前回今回と古典ミステリーを紹介してきましたが少しでも興味を持っていただけたのなら幸いです。
次回はその12ということで12にちなんだ本を紹介しようと目論んでいます。
では、またその12でお会いしましょう。