
オススメの本その12。
ちょうどタイミング的にも12月に重なったので、今回はとことん12にこだわってみました。
12月12日、その12で紹介するのはその名も『十二単を着た悪魔』。
ざっくりあらすじ。
三流大学出身、就職浪人中のフリーター伊藤雷。何をやらせても一流の弟にコンプレックスを抱えながら冴えない日々を過ごしていたが、弟の大学合格祝いの夜、何故か源氏物語の世界にタイムスリップ(?)してしまう。
そこで出会ったのは源氏物語では敵方として名高い弘徽殿の女御。
アルバイト先でもらった源氏物語のパンフレットを頼りに、弘徽殿の女御専属の陰陽師として次第に平安の世に名を知らしめていく。原作では語られることのない弘徽殿の女御視点から見る源氏物語。
物語を通しては、主人公雷が源氏物語の世界の人々との関わりの中でどう考え生き抜くのか、という主人公の成長や変化が弘徽殿の女御サイドの目線から描かれています。
原作ではいつの間にかフェードアウトしてしまう弘徽殿の女御や朱雀帝ですが、スポットライトを当ててみると何とも魅力的なキャラクターばかりで、紫式部の描く人物の多彩さに改めて驚かされました。
まず一つは主人公雷と弟の関係性。
三流と一流。兄と弟。様々なファクターが関係を複雑にしていますが、根底にあるのはお互いがお互いを個人として尊重しているということ。光源氏とその異母兄である朱雀帝の兄弟もまた天才と秀才、正妻の息子と側室の息子、立場上仲良くとはいかなかったけれど、お互いを良き兄弟として認めっていました。
タイムスリップした先で何度か朱雀帝と自分を重ねて弟を思い出す場面があるのですが、コンプレックスはあれど家族としての愛情や信頼が伝わってきて、思わず共感、というか納得してしまいました(笑)
もう一つは主人公の「その後」。
なんとこの主人公、タイムスリップした後に陰陽師として名を馳せるだけではなく、その世界に根付くというタイムスリップ物にしては珍しい選択をします。過去の世界ではなくストーリーの始めも終わりも決まりきっている物語の世界に異分子が根付くとどうなるのか、ぜひ読んで確かめてみてください。
また個人的な感覚として、タイムスリップ物って現世に戻ってきた後は大体どれも同じように展開するイメージがありました。けれどもこの物語の主人公は、前の世界での経験をもとに具体的に行動していきます。ある意味夢がないような、夢のまた夢のような…。それでも、私が今まで読んできたタイムスリップ物の中で一番実りのある「その後」だった気がします。
どちらの「その後」にも言えるのが具体的であるということ。
ふわっと流されてしまいがちな部分を細かく具体的に物語に織り込んでいくことで、この作品がよりリアルになっているのかなと感じました。
12にちなんで12月に十二単のお話を紹介してみました。
冴えない二流男のちょっとずるくてちょっと真面目なお話と、強く賢く美しい弘徽殿の女御の人生に圧倒されてみてはいかがでしょうか?