オススメの本その32で、教科書に載っていたお話がいくつか紹介されていましたね。
32を書いた人と中の人が違うのですが、同年代なので、
紹介されていた小説も習った記憶があって懐かしくなりました。
名前が挙がっていた作品以外だと、「舞姫」や「城の崎にて」なんかが印象に残っています。
中学時代なら「いちめんのなのはな」とか。小学生なら「ふたりはともだち」とか。
ということで、自分も思い出の作品を紹介しようと思います。
『きつねの窓/安房直子(1977)』
日本昔話みたいな子供向けテレビ番組で見たもので、
小学校の教科書に載っていることもあったというこちらの絵本。
殆ど動きのない水彩画みたいなアニメーションで観たのですが、
小学校1年生かそこらだったのにやたらと記憶に残っています。
主人公は「ぼく」。
「ぼく」はある日、猟の途中で子狐を見つけました。
すばしっこい子狐を夢中で追いかけていた「ぼく」が我に返ると、
あたり一面、桔梗の花の中、自分一人がぽつんと立っています。
見知らぬ土地に子狐も見失い、来た道を振り返っても見覚えのない建物が一件あるだけ。
「染め物 ききょう屋」。
その看板の下にはあどけなさの残る少年が立っていました。
「ぼく」はさっきの子狐が化けたのだと気付きましたが、
ここはひとつ騙されてみることにしました。
どんなものでも染められるという少年は、
渋る「ぼく」に指を染めてみてはどうかと提案します。
少年は自身の青く染まった指で窓を作り覗かせると、
その中には白く美しい狐が映っていました。
それは「ずぅっとむかしに、だーんとやられた」母なのだそうです。
「ぼく」はいたく感動し、自分の指も青に染めてもらいました。
窓を作ると、大好きだった少女、大切な妹がその先に映りました。
失ってしまったいとおしい風景がよみがえった「ぼく」は、
少年の求めるまま、猟銃をお代として渡し、
何度も何度も窓を覗きながら家路につきました。
そして「ぼく」は、家に帰って、いつものように、
手を洗ってしまいました。
青の色は水と共に流れ、何度窓を作っても、
その中にあの子の姿はないのです。
「ぼく」は見慣れた杉林を駆けて子狐を探しますが、
二度と、あのききょう畑を見つけることはありませんでした。
ざっくり書いたので細かい描写は省いていますが、
ぜひ読んでみて、この物語の核心について考えてみてください。
小学生だった当時、窓がなくなってしまった「ぼく」の喪失感がテレビを超えて伝わってきて、
どうにかならないものかと一生懸命考えたのを覚えています。
「ぼく」が失ったものの本当の大きさなんて、当時はおろか、
今だって半分わかればいい方なのではないかと思いますが、
蓋をした傷口が化膿する前に、きつねの窓によって、むき出しにされたところなんじゃないかなと思います。
かさぶたになって綺麗にはがれていくといいですね。