「○○の話(はなし)」シリーズ(タイトルが思いつかなかったものを体よくまとめただけ)も、かなりの数になってきました。
前回、使い方に迷った言葉として「ちょっとしたもの」を取り上げましたが、
今回は意外と知らない、皆さん“ご存知”のあの言葉のお話です。
ビジネスシーンでもよく出てくる「知る」に関する言い回し。
知っております。存じております。存じ上げております。
承知しております。ご存知のとおり。ご存知ない。
あれ、なんか最後の方の表記が変わったぞ。と、思いませんでしたか?
実は「ご存じ」と「ご存知」には意味の差はなく、
ビジネスシーンで用いられて広まったのが「ご存知」であり、
正しい表記は「ご存じ」の方だそうです。
要するに「ご存知」は当て字ということですね。
まあ確かに、元になっている「存じる」自体は動詞ですし、
そりゃそうか。と思いかけてふと疑問が湧いてきました。
「存じる」自体は「知る」の謙譲語ですよね。
上で並べた例でも、へりくだった表現として使われているものが多いです。
ですが、その頭に「御」が付くと、なぜ尊敬語の意味になるのでしょうか。
丁寧語「御」+謙譲語「存じる」=尊敬語「ご存じ」
書き出すと更に頭の中が???になりますね。
お前は一体何語なんだと。
ここで浮かぶのは、そもそも「存じる」は謙譲語なのか、
というところですが、ここの答えを考える前に一度脱線して、
「存じていらっしゃる」は果たして正しい言葉遣いなのかが気になってきました。
「存じて(謙譲語)いらっしゃる(尊敬語)」となると大いに矛盾を感じてしまいますが、
どちらかと言えば状態を表す形容詞的な使われ方をしているので、
「存じている(状態)」を丁寧に言い換えた尊敬語だよ~ってことなのでしょうか。
いや、そもそも存じるは謙譲語・・・。
これは堂々巡りですね!(笑)
さて話を戻して、
「存じる」は謙譲語なのか、という疑問については、
古文単語にまでさかのぼると個人的に納得出来ます。
古語「存ず」…(通常)存在する・ある/(謙譲語)思う・考える
というわけで、普通の用法もあるけど、同時に謙譲の意味もあって、
言葉自体に丁寧なイメージが付いたのかな、という憶測。
意外とこれがしっくりきてしまいました。(あくまで憶測)
いつの時代でも謙譲語でありつつ、
ちょっと襟を正した風に聞こえる普通の動詞なのでしょう。
と、ここで話を最初の最初に戻して、
「ご存知」は「ご存じ」の当て字で、いつしか広く使われるようになったというお話。
ここまで読んでくださった皆さんは、
その使い方をしたくなったビジネスマンの気持ちがわかるんじゃないでしょうか。
謙譲語だなんだ以前に、そもそも使われ方が形容詞的過ぎるんですよね。
そうかお前は動詞なのか・・・ってなった時に、
「ご存じない」なんて現れたらそりゃ、お前…形容詞か?ってなりますよ。
「ご存じだ」という形容動詞であれば、その後の「ない」が打消しの助動詞になりますし、
「存じない」という形容詞であればなんか理解がスムーズ。
(「頑是ない」のような形容詞に見えるよねっていう)
ここで小学校の頃に習った文法を思い出して頂いて、
1.○○ は どうする(動詞)
2.○○ は どんなだ(形容詞・形容動詞)
3.○○ は 何だ(名詞)
こんな見分け方を習った記憶はありませんか?
先に挙げた例はどちらも2に該当しますが、
2と3は同じ語句(語幹)が入ったりしますよね。
その場合に入る語句は単体だと名詞になることもなんとなく覚えているかと思います。
例えば、「安心」
・大切なのは安心だ(名詞)
・これでひとまず安心だ(形容詞)
このことを踏まえて、「ご存じない」を見てみると、
御(丁寧語)+存じる(動詞)+ない(打消し助動詞) →“御”による「存じる」の名詞化
ご存じだ(形容動詞)+ない(打消し助動詞) →「ご存じ=“知っている状態(丁寧)”」??
御(丁寧語)+存じない(形容詞) →「存じる」の意味的に解釈が適切でないなぁ
何となくいけそうだと思うのは上二つですが、
(いや、そもそも謙譲語。というツッコミは置いておいて)
どちらも「ご存じ」自体が名詞化して、ようやくしっくりくる感じ。
日本人の言語感覚的に、じゃあ当て字作っちゃおう!
・・・となるのも個人的には納得な気がしました(笑)
なんだか長くなりましたが、結局「存じる」とは何だったのか。
日本語はフレキシブルな言語だとよく言われますが、
そう言われる理由が分かった気がしますね。