毎年7月に入ってから思い出すこの読書感想文シリーズ。
今年は6月中に思い出せたので、
初夏の香りを感じながらしっかり読書を楽しめました。
なんなら5回目にして初めてちゃんとした「夏の読書感想文」かもしれません(笑)
『プラネタリウムのふたご』いしいしんじ/著

◆あらすじ◆
星の見えない村のプラネタリウムで、
解説員(通称:泣き男)は、座席で泣き声を上げる赤子を拾った。
美しい白銀の髪を持つ身寄りのない双子は、
その年に上空を過ぎて行った彗星にちなんで
テンペル、タットルと名付けられ、村の人々に見守られながら育っていく。
小さな村とプラネタリウムだけが彼らの世界だった。
けれども、奇術師一座が村に興行にやってきたことで
二人は遠く離れ、別々の道を歩んでいくことになる。
果てしない時間をかけて変わっていく星空の下でーー。
~~「でも、それ以上に大切なのは、それがほんものの星かどうかより、
たったいま誰かが自分のとなりにいて、自分とおなじものを見て喜んでいると、
こころから信じられることだ。そんな相手が、この世にいてくれるってことだよ」~~
こころの救済と絶望を描いた物語、という触れ込みと、
双子が別々の進路を採るということしか知らずに読み始めたものの、
2割ほど読んだあたりでじわじわと来るものがありました。
この双子と、この解説員が、ずっと幸せで穏やかな中で暮らせればいいのに。
それまでの登場人物があたたかくまろやかである分、
この先で誰かが悲しむことになるかもしれないと思うとページを捲る指が重くなりました。
淡々としているようで、泣き男が双子や世界に向けるあたたかい視線は胸を打ちます。
そういう泣き男だからこそ、この村のプラネタリウムは愛されるのでしょう。
詩的な作品かと思いながら読み始めて、
その文章の巧みさに引き込まれるように読み進めて、
間違いなく2025年の個人的ベストになりました。
何がどう好きかというのを言葉にするには言語化能力が足りないのですが、
文章のリズム、流れ、展開、登場人物の精神性、内包される題材など、
そのすべてが読んでいて心地よいのです。
“しっくりくる”とも違うのですが、
文中の言葉を借りるならば
“目に見えない羽毛の塊が、体内をやわらかく満たしているような感覚”。
ちなみに、
双子の名前の由来であるテンペル・タットル彗星はしし座流星群の母天体であり、
33年周期で地球に接近していて、次回は2031年5月20日に見られるそうです。
夏休みはこの本を片手に、天体観測してみるのも面白いかもしれませんね。









