皆さんは通勤時間をどのように過ごしていますか?
私は最近だと、昔に読んで楽しめなかった本や、
途中で投げ出してしまっていた本に再トライしています。
理解できていなかった部分や気付かなかった伏線探しという、
内容とは別の部分でも楽しめるので、
積読している方は一緒に引っ張りだしてみませんか?
今回はそんな投げ出していた一冊からピックアップ。
『そしてミランダを殺す(2018)』
原題:THE KIND WORTH KILLING
(直訳:殺すに値するモノ)
男は空港のバーでフライトまでの暇を潰していた。
酔いに任せて、たまたま声を掛けてきた見知らぬ女に妻の浮気を明かす。
「殺してしまいたい」
そう溢したのは本気だったのか願望だったのか。
飛行機が出発するまで。
そうしたら二度と会うことのない相手。
そのはずだったのに、女は男に妻と浮気相手の殺害を持ち掛け、
自分はそれを手伝うと言い出す―――。
これ、サスペンス小説ですよね。
日本ではミステリー部門でたくさんの賞を受賞していますが、
この小説にトリックはなく、言ってしまえばハラハラもなく、
ミステリー作品だと思って読むと展開に物足りなさを感じます。
この手の小説を読み慣れている人にとっては
予想を超える展開はないと言っても過言じゃない、
と思っていますがここだけの話にしておきましょう。
この本を読んだのは海外ミステリーをよく読んでいた時期で、
オススメの本10「雪と毒杯」・11「幻の女」・23「ニューヨーク1954」辺りを
読んでいたのと大体同時期だったと思います。
上記の3冊では事件が起こるのが冒頭か序盤。
それに対して、本作は主軸に関わる事件が起こるのが第二章に入る直前。
起きてもいない事件、分かっている犯人、増え続ける伏線。
(実際にはミステリーではないので伏線というわけでもないのですが)
一度目に読んだときは、
それこそ女が殺人に手を貸す理由くらいしか推理する対象がなく、
推理の道筋が見えなくてちょっと飽きてしまった感じでした。
タイトルは邦題の方が目を引きますが、内容的には原題の方が合っている気がします。
ストーリーとは別に、物語の軸になっているのが逸脱した倫理観。
登場人物にとっての「殺すに値するモノ」の判断が簡潔で素早く迷いがないのが興味深くもあり、
感情移入できないポイントでもあったかなと思います。
ここまで書くとそこまで楽しめなかったみたいですが、
日差しや空気の質感、息遣いまで感じられそうな
一人称視点の細やかな描写が印象的で、スピーディな場面転換に、
視点主によってガラリと姿を変える物語は独特の臨場感があり非常に面白かったです。
最後の一文を読み終えてページを捲ろうとする時、
文字の連なりであるはずの、彼女が振り向いて、視線が絡み、
「ねぇ、あなたそこで全部見ていたんでしょう?」
なんて声を掛けてきそうな、そんなヒヤリとした感覚。
殺す者と殺される者、追う者と追われる者が展開を追うごとに入れ替わり、
物語の結末はどこに向かおうとしているのか。
ぜひ皆さんも手に取って極上の臨場感を体感してみてください。